シロクマの粘土板

本拠地は「シロクマの屑籠」です。こちらは現時点では別館扱いです。

《統治される》ということは……

 

 
  

《統治される》ということは、あらゆる活動、あらゆる取引、あらゆる動きにおいて、記録され、登録され、調査され、課税され、印紙を貼られ、測定され、査定され、賦課され、認可され、許可され、注記され、説諭され、差し止められ、矯正され、懲戒され、処罰されることなのである。
 ────ピエール=ジョゼフ・ブルードン

 
 現場での国政術を長らく経験してきた小農たちは、国家が記録と登録と測量の機構だということをつねに理解してきた。だから、政府の測量士が白紙の表を携えてやって来たときや、国政調査官がクリップボードと質問票を持って世帯の登録に来たときには、臣民は、徴兵か強制労働か、土地の接収か人頭税か、それとも耕作地への新たな課税か、とにかくなにかの厄介ごとがそう遠くないのだとわかる。強制力をもった機構の向こうに山ほどの文書があることも暗に理解している。一覧表、各種の書類、納税者名簿、戸籍、規制、要求、命令などの文書は、大半がわけのわからない、理解を超えたものだ。彼らの頭の中では、そうした書類と自分たちの抑圧の源とが完全に一致している。だから、多くの農民反乱で最初に行われるのは、そんな書類がおいてある地元の記録事務所を焼き討ちすることだった。記録をつけることを通して国家が土地と臣民を見ているのはわかっているから、農民は暗に、国家を盲目にすれば自分たちの苦痛が終わると思いこんだのだ。古代シュメールの格言がこのことを見事に言い当てている。「王がいてもかまわない、領主もかまわない。けれど怖いのは徴税官だ」
 
 
 
 

シロクマ(熊代亨)の著書