シロクマの粘土板

本拠地は「シロクマの屑籠」です。こちらは現時点では別館扱いです。

なんとなく、『監獄の誕生』の一節を写経したくなったので

 素敵フレーズを見つけたら写経するとブログが上手になるかもしれないよ! ……なんて邪なことを考えるより、写経で心を落ちつけたい気分なので、疲れた身体に鞭打ってリアルフォースを叩くのである。
  

 ゲントの牢獄は、とりわけ、経済上の要請をもとに刑罰本位の労働を組織化してきた。その根拠となったのが、無為な暮しは大多数の犯罪の一般的原因であるという点である。1749年、アールスト裁判所管内で受刑者にかんして行われた調査――多分、世界で最初に試みられた調査の一つにちがいない――によると、犯罪者は「職人や職工」ではなく(労働者は自分に生活の糧をもたらす労働のことしか頭にない)、「物乞いに熱心な遊び人」であったのが明らかである。その結果、生まれた着想が、不法な振る舞いをする人間にたいして言わば労働中心の普遍的教育法を確実に実施するような施設である。それには長所が四つある。つまり、国家にとって高価につく犯罪捜査の数が減少し(そうなると、フランドル国では十万ポンド以上の金額が節減できるだろう)、浮浪者たちによって破産状態に陥れられた森林所有者への税金の減免を実施する必要がもはやなくなり、第三に、多数の新たな労働者がつくりだされ、その結果、「労働者間の競争のおかげで賃金の低下が生じるだろう」、最後に、真の貧乏人たちは、他の者と分かち合わずとも必要な施しに浴することができよう、というのである。かくも有益なこうした教育法は、怠惰な人物に労働の好みをふたたび植えつけるだろうし、労苦こそが怠惰よりいっそう有利となる利害体系のなかに強制的にこの者をふたたび位置づけるようになって、<生きんと欲する者は働くべし>という格言が明瞭に現れる、強制本位の縮約され単純化された小社会をその人物のまわりに形づくるようになるだろう。
 『監獄の誕生』、P125より抜粋

 刑罰のありかた・監獄のありかたを、経済的活用性や法のエフェクト効率性といった視点から紐解いていく書籍っぽいけれど、こういう面白フレーズがいっぱいで、単純に、読み物としての脂身やユーモアもたっぷりだ。「<生きんと欲する者は働くべし>という格言が明瞭に現れる」とか、いいよね!
 
 だいたい半分ぐらい読み終わったけど、フーコーさんの書くこと考えること、どれも面白くて面白くてしようがない。現代でいうエビデンスってやつにどこまで沿っているのかはともかく、過去の文献は惜しみなく引用しているし、その引用文献を組み合わせて顕わされようとしている力学、権力関係、コミュニケーション、枠組みが、稀有壮大にして陰鬱、ネチネチっぷりにも富んでいて素晴らしい。世評は既に聞いてはいたけれども、聞くのと読むのじゃえらい違い。フランス語原著で読める人は、もっとキラキラしたものを目撃できるんだろう。存分に楽しもう。
 

シロクマ(熊代亨)の著書